第14回 システム導入選定におけるパターン

タイで事業を開始する時、皆さんはどのようにシステム導入をされていますか。
タイ人任せ?それとも日本の本社の意向が色濃く反映される?そのような時に起こりうる短所と長所をまとめてみました。

パターン①「タイローカル主体で選定」

システムを実際に運用していくのは現地で雇用されたタイ人。端末入力を行うタイ人が選ぶのが一番いいという考え方です。
この場合、現地法人の日本人スタッフは承認の権限のみ。日本の本社は追認というのが基本的な構造です。
確かにそういった効用もあるでしょう。その方がタイ人スタッフも前向きにシステムに向き合うかもしれません。
ただし、それはタイ人の選定者に一定の知識があるという前提が必要になります。求められる専門の知識があるのかを日本人が見定めなくてはなりません。
さらに、このケースでは事業所の会計担当者の意向がどうしても強くなりがちです。
しかしながら、タイ人の会計担当者が生産管理にまで通じている例は極めてまれです。
その結果、生じるのは会計寄りのソフトウエアになってしまうということ。生産管理が後手に回るという現象が起こりうるのです。
場合によってはバックマージンが介在する余地すら生まれます。

パターン②「現地日本人主体で選定」

現地法人で働く日本人が主体となって選定し、タイ人スタッフの意向は参考意見にとどまるというのがこの区分です。

現場にある程度通じた駐在日本人が選ぶわけですから、日本の本社にも一定程度の安心感はあるでしょう。
日本人同士のコンセンサスも取れ、最も多い形態であるかもしれません。
ただ、ここで問題が一つ生じます。
日本から送られて来る現地駐在員は、労働許可証やビザなどの関係もあり最低限の人数。製造業なら製造の現場のみに通じた人がほとんどで、会計にまで精通した人も合わせて派遣される事例はあまり多くはありません。
生産管理と会計の両方に詳しい人が少ないというのが、このケースでのデメリットとして存在するのです。
さらに、せっかく現地の日本人が選んでも、それをタイ人スタッフが受け入れ、前向きに受け止めてくれるかは不透明です。
タイ側が求めるものと違うものが導入された場合、トラブルが起こりうる確率は決して低くはありません。

パターン③「日本の本社主導で選定」

システムの選定に、日本の本社の生産管理、経理、情報システムの各担当者がすべからく関与するというのがこの区分です。
現地からの情報もある程度は参考にするでしょうが、それでも情報システム部門が関わる以上、日本の本社で採用される「日本基準」が導入される可能性は極めて高くなるということができます。
日本人スタッフ同士のコンセンサスも得やすく、責任も生まれ、システムは間違いなく精度が高く芯を捉えたものとなるでしょう。
生産性の向上にも寄与し、企業活動にも一段と弾みがつくと期待されることでしょう。
ただ、現実にそのように進むかは不透明です。懸念される問題として、導入される「日本基準」にタイ側が付いてこられるかという問題があります。
タイにおけるシステム水準は、まだ日本のそれに及ばず、その差は歴然です。タイ側でシステムがうまく稼働させられず、事業に影響が出ないとも限りません。
現地の事情を考慮しないことが背景にあります。

パターン④「コンサルタントによる代行選定」

「餅は餅屋」とあるように、専門的な知見を持つコンサルタントにシステム導入を依頼し、その見解を受けて決定するという選択もあります。

一見したところ、確かにそれもうなずけます。その場合、提案依頼書(RFP=Request For Proposal)を提出してもらい、場合によってはコンペや相見積もりを実施するといったケースなどが考えられます。
この場合、タイの市場やシステムに精通したコンサルタントが豊富に日本国内に存在するとは考えられず、当然に選択肢として挙げられるのは、タイにあってコンサルタント業務をおこなっている専門家ということになります。
実際、タイには少なくないこうした業務を生業しているコンサルタントが存在します。
しかしながら、注意しなければならないのは、海外特にタイではRFPを採用した選定方法が必ずしもメジャーではないという点です。
マイナーと言っても過言ではありません。しかも、日本国内のように「見積もり無料」というケースもあまり見受けられません。後日、請求書が届きトラブルとなった例も後を絶ちません。

結局のところ、タイに精通した日本人がいて、日本のシステムの専門家が関与し、さらにはタイローカルとのコンセンサスが可能な環境の中で選定を進めていくというのが、最も失敗の少ない選択肢なのではないでしょうか。
そのうえで、会計と生産管理が連動しているシステムづくりがベスト。パターン①~④で上げたさまざまな問題を調整できる人材がいることがさらに望ましいと言えるでしょう。